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読む。書く。のこす。

『バルタザールの遍歴』佐藤亜紀(文春文庫)

友人の強烈プッシュで佐藤亜紀の『バルタザールの遍歴』を読んでいる。というのも、著者のブログは率直な切り口が好きで読んでいたのに、作品は読んでいないという話をしたから。だけど、その猛烈プッシュがしっくりこない。いや、一つの肉体に二つの人格という設定も後半の壁抜けなんて部分も面白いのに全身で感じるほどの歓喜はなかったという感じか。
とはいえ、汽車での移動中、ナチスの連中とメルヒオールがカルタをする場面。あまりにも勝負弱いエックハルトに向かってメルヒオールが忠告する。

「いいか、少尉、僕に遊んで貰いたいなら、これだけは守れ。第一は、出た札を覚えておくこと、第二は、札が悪ければはったりなんか掛けずに下りろ。第三は、手札が良ければ遠慮なく釣り上げるんだ」
「それで勝てるのか」エックハルトは疑わしそうに言った。
「少なくとも、君みたいな負け方はしない」
ふむ、と言って、少し考えてからエックハルトは言った。「けど、それだとしまいには三十枚もの札を覚えなきゃならなくなるぞ」
「たった三十枚だ」
エックハルトは絶望的な顔をした。

p294-295。
これほど人間味のある道化タイプのナチスの人間に出会ったのは初めて。それに、会話のリズム感や引用した箇所の他にも挟み込まれるユーモアはたしかに面白いものの、友人が強烈に薦めるほどの良さが僕にはわからなかった。他にも書評や感想に目を通してはみたけど、各所で挙げられているスゴさという部分にうまくフィットできない。うーん、僕に素養がないと切り捨てるのは簡単なんだけどとりあえず、今度は二作目の『戦争の法』を読んでみよう。

バルタザールの遍歴 (文春文庫)
佐藤 亜紀
文藝春秋
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