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履歴を記録すること

ハードボイルドDNA

タンパク質の製造過程で遺伝子のありかが探し出され、それが転写される様子を小川洋子は、

私のイメージの中で、DNAのチャックは静かに開く。もちろん必要な長さだけ、わずかの狂いもなく、厳かな雰囲気さえ漂わせつつ開く。ご本尊なのだから、慌てたり、はしゃいだりしない。堂々としている。そこへ「どうも、失礼します」という感じで恐縮しながら、RNAが核の中に入ってくる。RNAは一本のピラピラした紐で、やはりご本尊ほどの威厳はないが、柔軟な体つきをしており、粘土でペタンと型をとるように、素早く塩基の順番を写し取ってしまう。役目を終えた紐は決して長居をしない。「お邪魔しました」と挨拶をして、すぐさま製造工場へ移動する。働き者のtRNAは、順番に整列させたアミノ酸を引き連れ登場する。開いた時と同様、DNAはまた静かにチャックを閉じる・・・。どこにも無駄がない。誰も文句を言わない。皆がただ黙々と自分の役目を果たしてゆく。

p72-73『科学の扉をノックする』
と描写する。遺伝子の世界が、ハードボイルドの世界と重なってしまう。私立探偵・遺伝子は今日もまた静かに仕事をこなしていく。