『香水』パトリック・ジュースキント(文春文庫)
鼻あるいは嗅覚、という主題で井上夢人の『オルファクトグラム』を思い出したけれども、検索してみると2作品を連想する人がやっぱり多いみたい。こういう主題の小説って、あんまり見かけないからかもしれなけれど。
人間は目なら閉じられる。壮大なもの、恐ろしいこと、美しいものを前にして、目蓋を閉じられる。耳だってふさげる。美しいメロディーや、耳さわりな音に応じて、両耳を開け閉めできる。だが、匂いばかりは逃れられない。それというのも、匂いは呼吸の兄弟であるからだ。人はすべて臭気とともにやってくる。生きているかぎり、拒むことができない。匂いそのものが人の只中へと入っていく。胸に問いかけて即決で好悪を決める。嫌悪と欲情、愛と憎悪を即座に決めさせる。匂いを支配する者は、人の心を支配する。(P216)
- 作者: パトリックジュースキント,Patrick S¨uskind,池内紀
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2003/06
- メディア: 文庫
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