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読む。書く。のこす。

『香水』パトリック・ジュースキント(文春文庫)

鼻あるいは嗅覚、という主題で井上夢人の『オルファクトグラム』を思い出したけれども、検索してみると2作品を連想する人がやっぱり多いみたい。こういう主題の小説って、あんまり見かけないからかもしれなけれど。

人間は目なら閉じられる。壮大なもの、恐ろしいこと、美しいものを前にして、目蓋を閉じられる。耳だってふさげる。美しいメロディーや、耳さわりな音に応じて、両耳を開け閉めできる。だが、匂いばかりは逃れられない。それというのも、匂いは呼吸の兄弟であるからだ。人はすべて臭気とともにやってくる。生きているかぎり、拒むことができない。匂いそのものが人の只中へと入っていく。胸に問いかけて即決で好悪を決める。嫌悪と欲情、愛と憎悪を即座に決めさせる。匂いを支配する者は、人の心を支配する。(P216)

香水―ある人殺しの物語 (文春文庫)

香水―ある人殺しの物語 (文春文庫)